著作

『桑港にて』

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帯の言葉/
第27回歴史文学賞受賞作。 咸臨丸による太平洋横断の快挙の陰に秘められた桑港残留水夫たちの異国での暮らしと海の男の絆を描く力作。表題作のほかに、常磐炭鉱を開いた片寄平蔵の生き様を活写する「燃えたぎる石」を収録。

第27回歴史文学賞「選評」より/
受賞作の「桑港にて」は、咸臨丸の乗込水夫たちの、桑港に着いてからの生活ぶりを描いて、この点で目立っていた。水夫たちの物珍しい異国での経験、故国への人間的郷愁、仲間同士の助けあいなど、内地の生活ではまったく味わえないできごとが、さまざまに織り込まれていて、全候補作を何度か検討吟味していると、この作品が浮かび上がってきた。つまりは、登場人物の生き方のリアリティがしっかりしていたためである。(伊藤桂一氏評)
「桑港にて」は有名な遣米使節を乗せた咸臨丸のエピソードだが、艦長の勝海舟ではなく乗組夫たちに焦点をあてているところが新しく、歴史小説によくある固さがなく、こなれている文章も買われた。作者はかつてこの賞の有力候補となっていたが、今回で金的を射止めた。精進のほどが、人物の性格の書き分けやストーリーの展開にあらわれているし、こまやかな目配りが効いて登場人物が生きている。(早乙女貢氏評)